2011年の労基署調査に対して明治学院大学が提出した「就業条件」には「裁量労働制」と明記されているものの,実際にはその要件を全く満たしておらず,明らかな「偽装協定」であることについて告発する。
1.労働基準監督署へ提出された書類
先ず,次の画像をご覧頂きたい。
ここに記された内容を書き起こすと,次のようになる。
所定労働時間: 裁量労働制 39時間20分
所定休日 週休1日制
日常業務: 学生を教授し,その研究を指導する職務
・1週5コマ(1コマ90分)の授業を担当
・年間10コマの授業を担当
・入学試験業務
・定期試験業務
・教授会・委員会等の諸業務
これは「大学教員」の働き方としては標準的なものであり,どこにも怪しむべき点はないように見える。
「所定労働時間」を見ても,「法定労働時間」である「1週40時間」を越えてはいない。「日常業務」にしても,「定められた数の授業を担当して学生を指導する」のが大学であるし,「試験」や「校務」をやらない大学教員など見たこともない。
ちなみに,文部科学省はウェブサイト上で,大学も一般企業と同様に労働関係法令が適用されるということに注意喚起を行っている。
学校法人および私立学校の教職員については、公務員法制の公立学校と異なり、一般企業の従業員と同様、労働基準法をはじめとした労働関係法令が全面的に適用されます。
「私立学校・学校法人の労務管理」
そのため、各学校法人および私立学校におかれましては、改めて、労働時間の客観的把握、36協定等必要な労使協定の締結、就業規則等の学内規程の整備及び当該規程に則った運用等、労働関係法令に基づいた適切な労務管理を行っていただくようお願いします。
従って,画像の書類「就業条件等一般事項」に記された内容は,「大学教員」の働き方としては一般的なのだから,労働関係法もきちんと遵守していることの紛れもない証拠である,と誰しもが認めるのではないだろうか?
2.裁量労働制とは?
ここで,この書類に記されている「裁量労働制」がどういうものであるか,具体的にご存知だろうか?
通常の語感からすれば,「裁量」であるのだから「時間や仕事量を自分の好きなように定めることができる」ということを意味するように思うだろう。
たしかに「大学教員」であれば,「授業」を行うわけであるし,教育組織の運営のために「会議」もする必要があるのだから,そこは時間が定められているとしても,それ以外は自由に自分の「研究活動」をやりたい放題することが許されているだろう。
その上,小説やドラマや漫画やアニメに出てくる「大学教授」たちだって,そうやって自由を満喫し活き活きと研究人生を送っているではないか。そんな自分のやりたいことを好き放題やってお金を貰って生活できるなんて,こんな羨ましい職業はないのではないだろうか?
と,ここで気付かないだろうか ― さきほどの書類「就業条件等一般事項」では,その「大学教授」の第一のイメージであるはずの「研究活動」が「日常業務」には入っていないのである。
それに対して多くの人たちは,「いや,『日常業務』ではないにしても,大学教授には特権的に『特別業務』として許されているのではないのか?」と思うかも知れない。
しかし,残念なことに,労働法制上,「日常(正規)業務」ではない業務は通常「時間外労働」 と言われる。これは「36協定」を締結する必要のある業務であり,「裁量労働」とは関係がない。(「36協定」に関しては別稿に譲る。)
それでは,労働法制上,「裁量労働」はどのように定められているのだろうか?
厚労省のウェブサイトでは,「裁量労働制の概要」(厚生労働省労働基準局監督課)のページに「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つのものが上げられている。
このうち,前者「専門業務型裁量労働制」は,
業務の性質上,業務遂行の手段や方法,時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から,対象となる業務を労使で定め,労働者を実際にその業務に就かせた場合,労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度
厚生労働省労働基準局監督課「専門業務型裁量労働制」より
であるとされるが,これを導入できるのはあくまでも,そこに示されたわずか「19業務」に限られている。しかも,「事業場の過半数労働組合又は過半数代表者」との「労使協定」を締結することによって初めて,導入することができるのである。
「大学教員」の業務として導入可能な「裁量労働制」があるとすれば,まさにここに示された「専門業務型裁量労働制」のみであるということである。
3.「主として研究に従事する」とは?
ということは,「大学教員」に遍く導入できるわけではないということになる。実際,「大学」の業務に導入するとしても,次のような業務内容にのみ限定されているというのである。
学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
同「専門業務型裁量労働制」より
実は,この「大学における教授研究の業務」は,平成15年(2003年)10月22日基発第1022004号「都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知」によって,「専門業務型裁量労働制」に追加されることとなった。そして,この通知において,教育行政の側で曖昧にしか表現されていない業務内容が,労働行政の側から厳密に定義し直されている。
- 当該業務は,学校教育法に規定する大学の教授,助教授又は講師の業務をいうものであること。
- 「教授研究」とは,学校教育法に規定する大学の教授,助教授又は講師が,学生を教授し,その研究を指導し,研究に従事することをいうものであること。
- 「主として研究に従事する」とは,業務の中心はあくまで研究の業務であることをいうものであり,具体的には,講義等の授業の時間が,多くとも,1週の所定労働時間又は法定労働時間のうち短いものについて,そのおおむね5割に満たない程度であることをいうものであること。
尚,平成19年(2007年)4月2日基監発第0402001号では,学校教育法改正に伴って,「准教授」・「助教」の業務も同じく「大学における教授研究の業務」として取り扱うべきことが通知されている。
改めて「専門業務型裁量労働制」が導入可能な「大学における教授研究の業務」は,「主として研究に従事する」ものに限るのであり,その意味は,「研究以外の業務は,所定労働時間・法定労働時間のうち短いものについて,その概ね5割に満たない程度」であるということである。
つまり,「大学教員」の業務に導入できる「専門業務型裁量労働制」は,労働法制上,「労働時間」によって厳密に定められている,というわけである。
4.要するに大学における「裁量労働制」とは何か?
たしかに,「研究」というのは時間や場所に束縛されない状態にあって,一つの研究対象に向かって全身全霊を打ち込むからこそ成立するのであって,それを「業務」として,通常の中小企業の社員のような働き方で行ったとしても,「研究」としての成果を出すことは難しいだろう。
だからこそ,「研究業務」のあり方として,労働者(大学教員)の「裁量」に委ねるのは合理的であろう。そして,その殆ど無際限とも思えるような「労働」(研究時間)に対し,最低でも「所定(法定)労働時間」分の賃金を支払って貰えるならば,全く文句はないだろう。
そもそも「裁量労働」というのは,「賃金」の側面からのみ見た場合,「所定(法定)労働時間を越えてどれほど長い時間にわたって業務に携わったとしても,所定(法定)労働時間分の賃金しか支払わなくともよい」(みなし労働時間制)といういわば「定額働かせ放題プラン」を指している。
その一方,「大学」は,その「研究成果」や「研究分野」の後継を育成していく「教育機関」でもあるため,「教育業務」も必要である。そして実際には「授業」を行うのであるが,これは「時間・空間に束縛される」わけであり,その意味で「裁量労働」とは成り得ない。
そこで,この「大学」における「研究」(裁量)と「教育」(定時)という互いに拮抗し合う業務形態同士を折衷させたものが,平成15年(2003年)10月22日基発第1022004号「都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知」に「大学における教授研究の業務」として示されたものだったのである。
そしてこのとき,「教育業務」に対する「研究以外の業務は,所定労働時間・法定労働時間のうち短いものについて,その概ね5割に満たない程度」という時間制限を遵守するならば,例えば,授業1コマ(90分)に対し,その準備・片付け・学生への対応・待機時間等々をも含めて(これらは労働法制上全て「労働時間」として扱われる),一般に5〜6時間は費やされるため,1週3コマが限度ということになる。というのは,「授業」以外にも,教育組織の運営のための業務(委員会等)の時間も全て,この「20時間」という制約の中に含めなければならないからだ。
ここで,この法律を徹底的に遵守した場合の業務形態に,不思議な感覚を覚えないだろうか? そう,これは古き良き時代の「大学教授」の働き方そのものなのだ。
即ち,この古き良き時代の「大学教授」の働き方を,労働法制によって条文化したものが,上述の「学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)」の内容だったというわけだ。
法の条文から自然に演繹され帰結する事実は,以上に尽きる。
筆者には非常に奇異に思われるのだが,このようにして,法の条文に示された定義と通常の法的推論さえまともに行えば,殆ど機械的形式的に帰結する内容を,法律家も大学教員も,全く理解していないのが現実である。むしろ,この程度の単純な前提と推論を理解できる知能を持ち合わせていない人間が専門家を僭称しているのではないかと怪しむほどである。
ただ,大学教員における「裁量」について問題にされる場合,しばしば捩じれが生じるのであるが,その原因は,この「裁量」という概念が,全く異なる2つの層において用いられていることに誰も気付いていないことにあるのではないかと思われる。
一つはこれまで論じてきた「労働法制」上の概念であるが,あと一つは「日本国憲法」に保障される「学問の自由」の概念である。これら2つの全く内包の異なる概念を,同一の「裁量」という言葉によって名指すことにより,議論に非生産的な混乱が齎されることとなる。
これまで見てきた様に,「裁量労働制」を問題にする場合,それはあくまでも「労働法制」上の概念としての「裁量」を扱っているのであり,仮に「裁量労働制」が導入されなくとも,それとは全く無関係に,「日本国憲法」に保障される「学問の自由」は成立し得るのである。
5.奇妙な就業条件
さて,これまで「大学教員」の業務に導入できる「裁量労働制」の法律上の規定について詳しく見てきた。これらのことを念頭に置いて,最初の画像にある文書「就業条件等一般事項」を眺めてみると,異様なことに気付くはずである。
「所定労働時間」として「裁量労働制39時間20分」となっているものの,その「業務内容」は「研究以外の業務」のみなのである。これは明らかに,「研究以外の業務は,所定労働時間・法定労働時間のうち短いものについて,その概ね5割に満たない程度」という法の規定に反している。
この点をもう少し明確にしておこう。先ず,次が当該文書に記された「日常業務」である。
学生を教授し,その研究を指導する職務
「就業条件等一般事項」
他方,「裁量労働制」を導入することが可能である「大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)」というのは,
学生を教授し,その研究を指導し,研究に従事すること
平成15年(2003年)10月22日基発第1022004号
であった。
このように2つを併記してみると,その差異は歴然としている。労働基準監督署に提出された文書「就業条件等一般事項」に記された「日常業務」は,条文に明記された「研究に従事する」という文言が意図的に削除されているのである。
こうして出来上がった「学生を教授し,その研究を指導する」という文が意味するのは,「授業を担当し,その授業のための教科教材研究をせよ」ということであり,いわば小・中・高の教諭あるいは塾や予備校の講師のような働き方を時間無制限にせよと命じているということである。
つまり,「学術研究活動」は全く度外視され,「研究」は個人の趣味として勝手にやって下さいということなのだ。
勿論,「研究室」や「研究費」はそれなりに与えられている。しかしそれは,どこまでも「大学」としての体裁を整えるための口実であって,実際には全く非合理的な扱いになっているのが現状である。(その詳細については,プロフィールに記したウェブサイトを参照頂きたい。)
それ以上に恐ろしいことが予想される。
件の「就業条件等一般事項」に記された「就業条件」が「研究」を「正規(日常)業務」から排除する以上,これら「研究室」や「研究費」は,ハナから「業務には直接関係のないもの」なのであるから,「大学」としての体裁を整えようとしている間はまだしも,「学長」や「経営者」(学校法人)の一存で,いつでも無用なものとして廃止することもできる。
「そんなバカな」と思うかもしれないが,最初から「研究」は「個人の趣味」であるとし,「業務」(労働)としては契約が結ばれていないわけであるのだから,経営者側からすれば業務外の諸事に予算を捻出する必要は毛頭ないだろう。
勿論これは,当該珍文書「就業条件等一般事項」に基づく可能(妄想)世界の話である。労働法制上,「大学教員の研究」は「業務」(労働)である。この根本的な前提が全く度外視されている点で,当該文書に記された「裁量労働制」は偽装であるということに,最早,異論はない。
6.存在しない労使協定
ここから更に奇妙な事実が明らかになってくる。というのも,これが「労働基準監督署」に提出された文書に記された内容であるからだ。
もう一度,厚労省のウェブサイトにある「裁量労働制の概要」(厚生労働省労働基準局監督課)のページに掲載されている「専門業務型裁量労働制」の解説を一瞥しよう。先に引用したものをそのまま転写するが,ここでは着目すべき点を太字にしてみる。
業務の性質上,業務遂行の手段や方法,時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から,対象となる業務を労使で定め,労働者を実際にその業務に就かせた場合,労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度
厚生労働省労働基準局監督課「専門業務型裁量労働制」より
一文が長いために注意が向かないだろうが,労働法制に多少なりとも通じていれば,決して見逃すことのない文言である。これは「労使協定により定める必要がある」ということを意味している。
前項まで述べてきたことは,専ら「大学における教授研究の業務」に「専門業務型裁量労働制」を導入する場合の「労働時間」に関してであった。しかし,そもそもこの「専門業務型裁量労働制」を導入するためには,原則として次の事項を「労使協定」により定めた上で,様式第13号により所轄労働基準監督署長に届出ることが必要である。
(1) 制度の対象とする業務
厚生労働省労働基準局監督課「専門業務型裁量労働制」
(2) 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
(3) 労働時間としてみなす時間
(4) 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
(5) 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
(6) 協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
(7) (4)及び(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
次は,その「様式第13号」の記入例であるが,この「専門業務型裁量労働制」を導入する業務の一つ一つに対し,個別的具体的に記載する必要があるのである。そして,当然のこと,その記載のない業務については,「専門業務型裁量労働制」の対象にはならず,万一,届けのない業務に対して「裁量労働」を強いた場合には,直ちに「労働基準法違反」が問われうる。
ところが,筆者の務める大学の『規程集』には,この「専門業務型裁量労働制」導入に必要であるはずの「労使協定」は存在していない。
しかも,上記必須協定事項のうちの(6)に「協定の有効期間」がある以上,数年毎に学内「教員組合」の議案として上がってきてもおかしくはないはずであるところ,筆者の20余年にわたるこれまでの全就任期間において,一度もその議案が通知され議決されたという事実はない。
即ち,形式的に,本学は全教員の業務に対してそもそも「専門業務型裁量労働制」を導入するための「労使協定」を締結しておらず,従って,冒頭に示した労働基準監督署宛文書の「就業条件」は,明らかな「虚偽記載」である。
7.奇妙な行政対応
さて,当noteアカウント「開設趣意」に記した通り,筆者は2011年1月に横浜西労働基準監督署で「労働者災害補償保険」を申請するのであるが,冒頭に掲げた問題の文書はその調査の中で大学側が労基署に提出した証拠書類である。
勿論,こうした行政調査資料は,申請者が労基署に頼んでその場で閲覧させて貰えるような代物ではない。それを閲覧するためには,然るべき行政手続きが必要になる。
一般に,労災が認められなかった場合,決定を下した労基署を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対し「審査請求」を行うことができる。しかもこの請求は,その決定を知った翌日から起算して3ヶ月以内に行う必要があるが,この間,労基署の判断に対する反論を準備しなければならないため,その判断根拠となった申請者本人に関する保有個人情報の全て(「実地調査復命書」および添付資料一切)の開示請求を行い,これに基づき「審査請求」するわけである。
このような煩雑な手続きを踏んで入手した資料の中に,これまで問題にしてきた「就業条件等一般事項」という証拠書類が見付かったというわけである。しかも,その内容は「労働基準法」に関わるものであるだけに,決定を下した労基署がその確認をしないはずはない類の文書である。
ところが,既に明らかにしたような「裁量労働制」の偽装については,「審査請求」(労働局),「再審査請求」(労働保険審査会),「行政訴訟」(厚労省/国)に至るまで,全く不問に付された。
そればかりではない。「行政訴訟」においては,国(厚労省)側の陳述書に,とんでもない詭弁が弄されていた。
既に十分に論じたことであるので,ここでは繰り返さない。平成15年(2003年)10月22日基発第1022004号「都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知」に明示された内容を,国(厚労省)自らが無視し,何の法的根拠もない持論によって「専門業務型裁量労働制」導入のための前提を毀損しているのである。
そもそも,「労働行政」に関係するこれらの公的機関は何故「専門業務型裁量労働制」導入に必要な「労使協定書」を調査しないのだろうか?
少し脱線するが,安倍晋三元首相が「働き方改革」の一環である「裁量労働制の労働時間」について答弁した際に根拠とされた「2013年度の労働時間等総合実態調査(総合実態調査)」に,データの改ざんがあったことが大きな波紋を呼んだ。
実は,当note「開設趣意」にも記した通り,筆者が上記の「行政訴訟」を提起したのは2014年1月23日のことであったが,それに先立って,2013年1月21日付で厚労省・文科省宛に教育労働行政における責任を問う文書を送付している。まさに,このときの国の労働行政に対するあり方は,既述の労働基準法違反の指南に表れてはいまいか?
さて,筆者は昨年2021年11月3日付で「警告書」を大学に送付し,大学が様々な法令違反を犯し続けているということを指摘した上で,「労働基準法違反」については通報すると警告した。そして実際,その翌日には,横浜西労働基準監督署に同日付で同文書を送付し,その数日後には,同署より筆者に通報内容の確認のための電話があった。
大学と横浜西労働基準監督署に送付した文書には,その資料の一つとして,本稿の最初に呈示した「就業条件等一般事項」を添付し,「労働基準法違反」の紛れもない証拠であることを指摘している。
即ちそれは,筆者が2011年1月に「労働者災害補償保険」を申請したときからその文書の日付に至るまで,「裁量労働制」偽装が続いてきたことを証明するものである。しかし,更にそれから一年が経とうとする今現在も,大学の「労働基準法違反」の状態は続いている。
横浜西労働基準監督署は,何故,この十数年にも及ぶ大学の悪質な「労働基準法違反」を捜査し改善命令を発しないのであろうか? 何らかの「圧力」がかかっているのだろうか?
8.残業代支払い催告
更に,今年に入ってすぐ,本学「教員組合」にも「労働基準法違反」について記した文書を送付し,組合で取り組み改善すべき問題であることを伝えた。それも,数度打診したのであるが,全く回答をよこさず無視し続けている。ここに詳細は記さないが,「教員組合」が大学の言いなりになり,日本国憲法に保障された本来の「団体交渉権」を行使して「労働基準法違反」を是正しようする意思を持たないからである。
そこで今年(2022年)4月に入ってから,筆者は個人的に労働弁護団の弁護士を代理人として立て,大学に対し以下の質問をした。(矢印の後がそれらの質問に対する学院側代理人弁護士の口頭による回答。)
- 「裁量労働に関する労使協定書はあるか。」 「直接的なものはない。」
- 「裁量労働等に関する就業規則はあるか。」 「ない。」
- 「労働時間把握はしているか。」 「していない。」(既に行政訴訟で確認されていたが,それ以降もその違法状態が継続している。)
ここで,「裁量労働制」導入のための前提が毀損されているということは予測がついていたのであるが,その場合,具体的にはどうなるのであろうか?
その場合には,単に「裁量労働制」に伴う「見なし労働時間制」をとることができなくなるため,一般会社員同様,「所定労働時間39時間20分」を越えた労働時間に対する「残業代」が1分刻みで発生し,状況に応じて「割増賃金」を支払う必要が出てくることになる。(勿論,「法定労働時間」を超える場合には「36協定」の締結が必要になるが,これについては別稿に譲る。)
おりしも2020年度は,新型コロナ感染症拡大により大学構内は閉鎖され,オンラインによる業務形態を命じられた。詳細は省くが,筆者は「教育業務」を全て LMS(manaba) 上で行い,労働時間が完全にサーバーに記録されるようにした。実際には,平均睡眠時間5時間となる週もあった。
このため今年4月の段階で,大学に対し,この LMS の2020年度以降のログイン履歴の提出と,それにより算定される残業代支払いの「催告」を行った。最初のうちは回答を待ってほしいということだったのだが,結局,それから半年が経とうとする今現在に至るまではぐらかし,文書による正式な回答は一切ない。
サーバーのログイン履歴など,コマンド一つで瞬時に出てくるものであるにも拘らず,何故,これほどまでに時間がかかるのだろうか? 大学のサーバー管理者が,救い難いほどに無能であるためだろうか?
ちなみに,残業代請求権の消滅時効は,2020年4月1日以降に発生したものについては当分の間「3年」となった。そして,上述の「催告」手続きをとることによって,この消滅時効は6ヶ月止まることになる。
さて,こうした状況については,やはり,教員組合執行部や学内で信用のおけそうな教員らにも伝え,また情報共有するよう呼びかけていたのだが,個人的にも問合せは一件もない。つまり,間接的にでも労働契約法違反に加担している人間だらけであり,このこと一つとっても,最高学府である大学などと名乗るのも憚られるほど幼稚で杜撰な集団だということを自ずと証している。
このような本学の体質は,これまでも幾度か述べてきた「教員組合」のあり方を見ると一層明確になるだろう。次回はそれに関して纏めてみたい。