明治学院大学は今現在に至るまで,「労使協定」を締結する上で絶対的に必要である「過半数代表者」を選出せず「36協定」の偽装を組織的に行ってきた。その不正を筆者に指摘された後,大学は慌てて「過半数代表者」の選挙を行うが,ここでも組織的な不正を行い,今現在,労基署に虚偽の協定書を提出し,尚且つ,協定書の周知義務に違反している状況下にある。その事実を告発する。
1.突然の同報メール
2022年8月22日,人事部から同報メールが届いた。件名は「2022年度および2023年度事業場別労働者代表選出について」となっている。
その最初の箇所を,改めて以下に再掲する。
労働基準法により事業所(会社等)が就業規則を作成・変更する時や事業所(会社等)と労働者の間で協定を締結する際には、労働者の意見聴取や行政機関への届出等の手続きが必要です。その手続きにおいて事業場(キャンパス)毎の全労働者の中から労働者の過半数の支持を得た当該事業場(キャンパス)の労働者代表を決定しなければなりません。労働者代表の役割は、その事業場(キャンパス)の全労働者の意見を代表して学院側との各種労使協定等の取り決めや手続きにあたります。
ここで特に決定的に重要であるのは「その手続きにおいて事業場(キャンパス)毎の全労働者の中から労働者の過半数の支持を得た当該事業場(キャンパス)の労働者代表を決定」という箇所である。
通常の大学では,正規の勤務員である「専任教員」と非正規の勤務員である「非常勤講師」に分けられ,後者は「コマ給」の臨時講師として雇われている。このため,大概の「非常勤講師」の方々は,勤務している大学の「労働組合」には加入する権利はなく,こうした「労使交渉」に関係する場に参加することはない,いや,参加する権利すらないと思い込んでおられることだろう。
だが,上述の強調箇所に着目する限り,これが「全労働者」即ち「大学と労働契約を結ぶ全勤務員」が係わる内容であるということは明らかである。
しかし,「非常勤講師」からすれば,突然この様な内容の通知を受けて,自分と何がどう関わるのか十分に理解できるだろうか? 勿論,この内容について,それ以前にもそれ以降にも,何の補足的な説明もなされなかった。
そもそも,筆者が本学に入職して以来,20余年,このような「事業場別労働者代表」の選出がなされたことは一度たりともなかった。
更に,気になる点が出てきた。このメールの最後に付け足された「但書き」の内容である。
本学は2校地(白金/横浜)に分かれているが,「専任教員」の場合,一週間のうちに担当する授業がこれら両校地に跨っていたとしても,自らの「研究室」が与えられている校地が「本務校地」(所属キャンパス)ということになる。
これに対して,「非常勤講師」の方々においても,複数の授業コマを担当し,同様に両校地に跨ることがある。この場合,どちらが「所属キャンパス」であるのか判別がつかない。上記の「但書き」は,この点について述べたものである。
それでもなお疑問は残る。「所属キャンパスについては,人事部で登録している所属キャンパスに基づいて」いるというのだが,筆者が担当している科目の「非常勤講師」の方々は,具体的にどのようになっているのだろうか?
そこで,早速,筆者が担当している科目の「非常勤講師」の方々に同報メールを送付し,本件に関してどちらのキャンパスの内容が届いているのかを尋ねてみた。すると,「白金キャンパス」で授業をもっておられる方から,「横浜キャンパス」に所属していることになっているという回答があった。
この「所属キャンパス」に関する事実については,ご本人も驚いておられたようである。何せここへ来て初めて認知することとなった事実なのだから。
ちなみに,筆者が担当する科目は「全学共通科目」の哲学と論理学であるが,この「全学共通科目」の手続き窓口となっているのが「教養教育センター」であり,更に,同センターが「横浜キャンパス」に所在しているため,全学共通科目を担当する大方の「非常勤講師」は,「横浜キャンパス」が「所属キャンパス」ということになっているらしい。
そうすると,この「事業場別労働者代表」を選出するための選挙権をもった「非常勤講師」の数は,「専任教員」のそれを遥かに凌ぐことになる。そうであるにも拘らず,この2022年8月22日付通知では,選挙権をもった勤務員の総数についても,全く伏せられたままであった。
そればかりか,何を目的として何故突然このような代表選出をすることになったのかについての経緯に関しては,「専任教員」も大学の「教員組合」から全く報告を受けていない。
実は,これには「労働基準法違反」に関係するとんでもない問題 ― 下手をすれば経営者(法人)が書類送検されるような ― が絡んでいたのである。
2.事業場別労働者代表とは?
そもそも冒頭の2022年8月22日付メールにあった「事業場別労働者代表」というのは,労働法制上,どんな役割をもっているのであろうか?
ここで興味深い実験をしてみよう。
Google検索で,この「事業場別労働者代表」なる語を検索してみる。その際,検索窓に「“事業場別労働者代表” site:www.mhlw.go.jp」と入れてみる。これは「厚生労働省のサイトで “事業場別労働者代表” という用語を完全一致で検索する」ということである。→ 結果
この結果が意味しているのは,「厚生労働省のサイトには “事業場別労働者代表” という用語は出現しない」ということである。即ち,少なくとも労働法制上の「用語」ではないということになる。
それでは,2022年8月22日付メールに記された「事業場別労働者代表」というのは,一体なんなのか?
再度当該メールに目を通すと「36協定」に関わるということが明記されている。従って,先ずは「36協定」をどのように締結するのかについて確認すればよい。
次は,平成29年(2017年)12月付厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署リーフレットである。
改めて,重要な箇所を再掲する。
「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」締結の際は、その都度、当該事業場に➀労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、②過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と、書面による協定をしなければなりません。
即ち,「36協定」を締結するためには,「過半数組合」か「過半数代表者」と書面による協定をしなければならない。そして,冒頭に示した2022年8月22日付メールに記された「事業場別労働者代表」というのは,この後者「過半数代表者」のことを指していたわけである。
ちなみに,Google検索で「“過半数代表者” site:www.mhlw.go.jp」として調べてみる。→ 結果
先ほど,「“事業場別労働者代表” site:www.mhlw.go.jp」で検索したときには何もヒットしなかったのとは大違いである。
つまり,この「事業場別労働者代表」という用語は,仮に当該メールの受信者らがその場で検索して調べたとしても,この「36協定」締結の要件を知ることがないように,大学が工作したものであるということがわかるのである。
これは前回記事に見たように,労働基準監督署の調査に提出した書類で法の条文を意図的に改ざんしていたのと軌を一にしている。
3.何故「過半数代表者」が必要なのか?
さて,前回記事で明らかにしたように,本学では「裁量労働制」を導入するための協定を締結していない。
このため,「所定労働時間39時間20分」を越えた労働時間に対する「残業代」が1分刻みで発生し,状況に応じて「割増賃金」を支払う必要が出てくる,ということは前回指摘した通りである。
ところが,今ここで問題にしているのは「36協定」である。もしもこの協定を締結していなかったとなると,「法定労働時間」を越えて労働させることは直ちに「違法行為」になる。そのため,筆者は昨年2021年11月3日付で「警告書」を大学に送付し指摘した,ということも前回述べた通りである。
しかし,大学はこの「警告書」の内容をその後も放置したため,筆者は今年4月に入って個人的に労働弁護士を立てて「協定」に関して問い詰めたが,その遣り取りの中で,大学はやっと「労働基準法違反」に気付き始め,この8月になってから対策を立て始めたのだろう。
つまり,少なくとも筆者が入職した2001年以来今現在に至るまでの20余年に亘って「36協定」が成立していなかったのだ。その中で,筆者は過重労働と組織的ハラスメントに苦しめられ続け,今現在も闘病生活を強いられている。勿論,2011年に申請した「労災」も,この「協定違反」と深く関わっていることは言うまでもない。
実際,次は『明治学院規程集』に収められた2012年3月19日付「時間外勤務・休日勤務に関する協定」である。
この書面では,「明治学院大学職員組合執行委員長」と「明治学院大学教員組合執行委員長」が「過半数組合」の代表として署名捺印しているのだが,これが労働法制上の要件を満たしていないことは直ぐに分かる。というのも,この「協定書」なるものの第3条に目を通すならば,「非常勤職員」および「非常勤講師」等を排除しており,「事業場に使用されている全ての労働者」(正社員だけでなくパートやアルバイトなどを含む)を代表していないからである。
そもそも,本学において「非常勤講師」が「大学教員組合」の成員とはなっていないという事実は,今現在本学に勤務しておられる当の「非常勤講師」の方々が証言することであろう。
また,前掲平成29年(2017年)12月付厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署リーフレットの2頁にも明記されている通り,労働基準監督署に届け出た「36協定」は労働者に周知する義務があり,これを怠った場合,労働基準法第106条(法令等の周知義務)違反となる。たとい『規程集』に収められていたとしても,それを閲覧することも許されていない「非常勤講師」の方々に周知したことにはならないだろう。
このように,「大学教員組合」が予め「非常勤講師」を排除した上で,それをあたかも「過半数組合」であるかのように扱い,形だけ通した「偽装協定」を締結することが因襲となっていたわけである。
そもそも,本学は2つのキャンパスに分かれていながら,「事業場」(キャンパス)毎に協定を締結するのではなく,上述の通り「過半数組合」でもない一つの「労組」が一纏めにして手続きをしていた。勿論,「事業場」(キャンパス)毎に管轄する労働基準監督署は異なるはずなのだが。
このため今更ながらにその不備を認識し,慌てて正規に「36協定」を締結するために,法規と辻褄を合わせるべく無理矢理「過半数代表者」を選出するための選挙をするという暴挙に出たわけである。
いずれにせよ,2022年8月22日人事部発同報メールの内容は,本学において「36協定違反」が常態化していたことを自白しているに過ぎない。
4.再び法令違反
兎にも角にも大学は「事業場別労働者代表」とやらの選挙を強行した。「大学教員組合」も通さず,「非常勤講師」の方々への事前説明もなく。
結果は,2022年9月21日付同報メールで発表された。
ところで,この選挙に「立候補」するには,「推薦人」を5名必要とするという条件が付されていた。次は,2022年8月22日付人事部発メールに添付されていた「立候補申出書」である。
従って,この選挙が真に「民主的」であったならば,この「立候補者」が同報メールで通知されたときに, 併せて「推薦人」が記されてしかるべきだろう。しかし,案の定それは伏されたままだった。「大学教員組合」からも何の通知もなく,そのままこの選挙結果通知が送りつけられてきたわけだ。
実は,この選挙に立候補し選出された人物は,当の「大学教員組合」の「執行委員長」である。しかも,筆者はこの一年ばかりの間,「大学教員組合執行部」に対して幾度も文書で「意見書」を上げているが,それらに対しては一切無回答のままである。こうなると,大学と組合執行部の癒着を疑わざるをえないだろう。
さて,上記結果について,全有権者数571のうち,未投票351を「信任とみなすこととしております」とのことであるが,これが「民主的な手続き」と言えるであろうか?
そもそも,当該メールを「非常勤講師」の方々のどのメールアドレスに送信しているのかも定かではない。大学から貸与されるメールアドレスであれば,それを普段使用してない方々も決して少なくない数だけあるだろう。
これに関して,令和2年10月21日厚労省公表「労使協定方式に関するQ&A【第3集】 」では,「メールに対する返信のない者を、メールの内容について信任(賛成)したものとみなす」ことの当否について,次のように回答している。
過半数代表者の選出には、労働者の過半数が選任を支持していることが明確になるような民主的な手続を経ることが必要である。最終的には個別の事例ごとに判断されるものであるが、一般的には、お尋ねのような取扱いは、労働者の過半数が選任を支持していることが必ずしも明確にならないものと考えられる。例えば、返信がなかった労働者について、電話や訪問等により、直接意見を確認する等の措置を講じるべきである。
労使協定方式に関するQ&A【第3集】問1-9答
なお、イントラネット等を用いて、労働者の意思の確認を行う場合も同様である。
勿論ここで直接的に例示されているのは,派遣労働者を含む労働者の過半数信任に纏わる問題ではあるが,「過半数代表者」選任手続きに関する事柄であることに違いはなく,そのまま同一の演繹推論が適用されうる。
従って,2022年9月21日付同報メールで発表された選挙結果は,その選出方法に重大な瑕疵があるため,無効とならざるをえない。
つまり,ここで選出された「事業場別労働者代表」(大学が命名するところの)が,今後如何なる「労使協定書」に署名捺印しようとも,それは何の効力も発することのない只の紙切れになるだけである。仮に労働基準監督署にそれを提出したとしても,後日の調査でこれが発覚した場合には,日付を遡って「労働基準法違反」を問われるという結果に終わるだけである。
いずれにせよ,明治学院大学において「36協定」は今後も当分の間は締結されることがないため,「法定労働時間」を越えて1分でも労働をさせたときには,即刻「労働基準法違反」となる。
この事実をここに記録しておくとしよう。
5.改めて「時間外労働」について
さて,前回も記した通り,筆者は既に昨年2021年11月3日付で横浜西労働基準監督署に諸々の法令違反については通報済みである。
更に,筆者が代理人弁護士を通じて問い質したことに対し,大学(学院)側顧問弁護士は「数十年に亘るこれまでの慣例であり是正の必要はない」と明確に自白している。通常は即刻書類送検になる暴挙ではないだろうか?
それから一年経った今現在も横浜西労働基準監督署は大学の捜査を行っていないが,今回の明らかな組織的工作に対しても不作為を働くのであろうか? 上述の2022年9月21日付同報メールは,その動かぬ証拠であるにも拘わらず。
ちなみに,労働基準法違反への刑事処分の対象については,例えば次のサイトが参考になるだろう。
前回記事に引用した通り,文部科学省もウェブサイト上で,大学も一般企業と同様に労働関係法令が適用されるということに注意喚起を行っている。
学校法人および私立学校の教職員については、公務員法制の公立学校と異なり、一般企業の従業員と同様、労働基準法をはじめとした労働関係法令が全面的に適用されます。
「私立学校・学校法人の労務管理」
そのため、各学校法人および私立学校におかれましては、改めて、労働時間の客観的把握、36協定等必要な労使協定の締結、就業規則等の学内規程の整備及び当該規程に則った運用等、労働関係法令に基づいた適切な労務管理を行っていただくようお願いします。
それにも拘らず,明治学院大学はこの文部科学省の指示すら無視している。
また,ここには「就業規則等の学内規程の整備及び当該規程に則った運用」と記されているが,前項で見た通り,その『規程』そのものが関係法令を恣意的に歪曲し改ざんした「村の掟」になっているために,それを「運用」することによって「法令違反」となる体制となり,その状態が数十年にわたって継続し常態化しているわけである。
さて,上で引用した文部科学省の指示事項の中に「労働時間の客観的把握」とあるが,厚生労働省は平成29年(2017年)1月20日付で「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定している。
次が,その「趣旨」と「適用の範囲」である。
1 趣旨
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。
しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。
このため、本ガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにする。
2 適用の範囲
本ガイドラインの対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場であること。
また、本ガイドラインに基づき使用者(使用者から労働時間を管理する権限の委譲を受けた者を含む。以下同じ。)が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除く全ての者であること。
なお、本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。
言うまでもないことであるが,前回記事において明らかにした通り,明治学院大学では「裁量労働制」を導入するための「労使協定」が偽装されていたため,当然,「みなし労働時間制」の適用外となる。
次に,同ガイドラインの「労働時間の考え方」である。
3 労働時間の考え方
同ガイドライン
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。
なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。
ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
更に,「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」として,次のように定められている。
(1)始業・終業時刻の確認及び記録
同ガイドライン
使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
このため,筆者はこの4月に労働弁護士を代理人として立て,筆者本人に係る LMS のログイン履歴(2020年度以降)を大学に請求した。これに対して,大学が今現在も拒絶し続けているという事実については前回記事に記した通りである。
その2020年度のことであるが,奇しくもコロナ禍に始まったこの年度から「時間外労働の上限規制」が施行されることとなった。
「労働基準法」では,「1日8時間」および「1週40時間」という労働時間に対する限度が定められ,これを「法定労働時間」と称している。 そして,使用者が労働者に対してこの限度を超える「時間外労働」をさせる場合に必要なのが,本稿で問題としてきた「36協定」である。
明治学院大学では,この「36協定」が偽装されてきたわけである。そして,その偽装された「協定」が『規程』には収められているものの,その内容すら遵守されてこなかった。何よりも「労働時間の客観的把握」をしていなければ,その規程を適用することすら不可能であろう。
さて本学では,2020年4月,学長命により全面的に「LMSによる遠隔授業」が導入されることとなった。
これはコロナ禍における緊急的措置であったことは否めない。
しかし,同時に施行された「時間外労働の上限規制」により,「臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることができない上限」が設けられることとなった。
ところが,予てより「労使協定」の偽装が常態化していた本学は,この「上限規制」が施行されたことさえも知らずに,それまでと全く変わらない就業条件を強いたわけである。このことにより「時間外労働」は膨大なものとなり,新たに施行されたこの「上限規制」をも犯す結果となったのである。
勿論,この「時間外労働の上限規制」は,「36協定」が締結されていたとしても遵守すべきものである。
そもそも「36協定」が正規に締結されていない本学が,それを上回る「時間外労働」を強い,更には,残業代等未払いが常態化していたなどということは言語道断である。そして,大学は今,この由々しき「労働基準法違反」への組織的隠蔽工作に躍起になっているのである。
6.「36協定違反」は非常勤講師にも損失を与える
ここで冒頭に戻って,そもそも「専任教員」の労働時間制限に関わる「36協定」の締結に,どうして「非常勤講師」が必要になるのだろうか?
それは,たとい「非常勤講師」といえども,「時間外労働」に伴う「割増賃金」が発生する可能性があるからだ。「割増賃金」に関しては,以下のものがある。
① 法定労働時間を超えて働かせた時(時間外労働)は 25% 以上増し
令和4年5月更新版『知って役立つ労働法 ― 働くときに必要な基礎知識』28頁
② 法定休日に働かせた時(休日労働)は 35% 以上増し
③ 午後10時から午前5時までの深夜に働かせた時(深夜労働)は25%以上増し
さらにこの割増賃金は雇用形態に関わらず、すべての労働者に適用されます。よって、派遣社員、契約社員、パートタイム労働者、アルバイトにも支払わなければなりません。
このうち,③の「深夜労働」については,「非常勤講師」にも関わる可能性がある。「授業時間」以外にも,「打合わせ」や「準備」などの時間は,全て「労働時間」であるからである。あるいは,「教育業務」にとっては「教室外の学生指導」は重要な業務であるので,それが「深夜労働」となる場合には,当然,「割増賃金」が発生する。
しかし,「専任教員」にあっても,「授業時間帯」(コマ)を離れた行動の何をどこまで「業務」とするのかについては,法律に明確に規定されているわけではない。逆に,法律に具体的に規定されないことによって「教授権」(裁量)が保障されているとも言える。それでも,本来的に私的な生活時間を犠牲にすることにもなりかねない。
だからこそ,このように直接的に法律には規定されていな事柄に対し,法律を準用する上で,労働者側の具体的な状況に応じて条件を提示し,使用者と交渉を行った上で定めるのが「協定」である。
ここにこそ,「専任教員」と「非常勤講師」を含めた全労働者の意思を反映させる余地があると言える。
その際に参考となるのは,先ず,前回記事に論じた「専門業務型裁量労働制」導入の条件である。これによって「研究以外の業務内容」がある程度明確になるはずであり,それに伴って,「授業関連業務」の時間が算定されるはずである。即ち,「1コマ」の授業に付随してどのような労働がどれぐらいの時間にわたって「授業時間外」に発生すると考えられるのか,その制限された時間枠(所定労働時間・法定労働時間のうち短いものについて,その概ね5割に満たない程度)の中で客観的に大凡の見当が付けられる。
勿論,この「専門業務型裁量労働制」は「専任教員」に関係するものではあるが,こうして「専任教員」の業務形態によって割り出された「授業に係る労働時間」は,そのまま「非常勤講師」にも適用されなければならないだろう。
というのは,同一科目の「授業」であれば,「専任教員」と「非常勤講師」とでは殆ど完全に同じ業務形態になっているからである。だからこそ,通常は「非常勤講師」が「専任教員」の代行要員(サバティカル期間や傷病欠勤等を理由にした補充)として十分に務まるわけである。
(ここで問題としているのは,あくまでも「労働時間」に限る。「賃金」に関しては,個々人の契約に応じた「基本給」より「単価」が割り出されることになるので,通常は同等とはならないであろう。)
近年,大学における非常勤講師の「コマ給」問題が取り沙汰されるようになり,ネット上でも弁護士らの見解や判例などを見掛けるようになったが,筆者から見れば,余りにも「大学」内部の制度を理解していない独断であるように思われる。
実際には,殆どの大学において「非常勤講師」は「コマ給」となっているが,上述したような「授業時間外」に発生する労働をも勘定するならば,おそらく時給700円にも満たないのではなかろうか。これは違法であるはずであるが,それに対して誰も声を上げ協議し労使交渉へ向かおうとしないのが現状である。権利の行使は,自分自らですべきものであるのだが。
とはいえ,「専任教員」の側がこうした労働法制における問題を解消しようともせず,「協定違反」を中心とした「労働基準法違反」に抗わないという現状が続く限り,「非常勤講師」の待遇は永遠に良くはならないだろう。
最初の話に戻れば,「36協定」は純粋に「労働時間」に関わる制度であるだけに,これを書類だけ形式的に通し,実態から大きくかけ離れることになるならば,間接的にも「非常勤講師」の待遇悪化に関わってくることになる。
一般に「非常勤講師」は契約する大学への帰属意識は低く,また,当該大学の「労使交渉」の場から阻害されているように思われているが,労働法制上,立派な勤務員であり,そうであるからこそ,こうした「労使協定」を結ぶための「過半数代表者」を選出する上で「投票権」をもつのであり,また,その一票は重みをもっているのである。
それが明確な意図をもっていたにせよ,メール不達の事故があったにせよ,あるいは全くの無意識であったにせよ,「全有権者数571のうち,未投票351」という結果は,このコロナ禍を通じて明治学院大学が「非正規労働者」の方々に対して如何なる待遇をしてきたのか,ということに対する声ならぬ声であったように思えてならない。
大学は,この結果を厳粛に受け止めるべきではないだろうか。