明治学院大学において常態化していた「安全配慮義務違反」について告発する。
1.驚くべき衛生観念の欠如
前回の記事では,明治学院大学が数十年に亘って「時間外労働・休日労働」に対する労使協定,即ち「36協定」を偽装し,長時間労働を強いながら残業代を騙しとってきたという事実を明らかにした。
更に前々回の記事では,本学が「専門業務型裁量労働制」の導入に必要な「労使協定」を締結してはいなかったにも拘らず,2011年に横浜西労基署が行った調査に際し,「専門業務型裁量労働制」に関する虚偽の文書を提出していたという事実を明らかにした。
但し,いずれについても「労働時間」の観点に限定して取り上げたに過ぎない。労働法制では,単に「労働時間」だけを問題にするのではなく,これに伴う「労働者の安全と健康」を確保する措置を義務付けている。
特に,「専門業務型裁量労働制」に関して,明治学院大学はこれを導入するための協定を締結するにあたっては「健康・福祉確保措置」が義務付けられているということさえも認知しておらず,また,実際にそのような措置をとるための学内的制度は存在しない。
ここで,「専門業務型裁量労働制」導入に際し義務付けられている「健康・福祉確保措置」というのは,次のようなものである。(太字強調は筆者による。)
健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするためには、対象労働者の勤務状況を把握することが必要です。使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法としては、対象労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等を明らかにし得る出退勤時刻又は入退室時刻の記録等によるものであることが望ましいことに留意することが必要です。
厚生労働省労働基準局監督課「専門業務型裁量労働制」より
健康・福祉確保措置としては、次のものが考えられます。
□ 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
□ 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
□ 働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
□ 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
□ 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
□ 働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言、指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること
※ また、使用者は、把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、 対象労働者への専門業務型裁量労働制の適用について必要な見直しを行うことを協定に含めることが望ましいことに留意することが必要です。
勿論,これらの具体的内容については,「労使協定」を締結するにあたって,「過半数組合」もしくは「過半数代表者」が,事業場の全ての労働者(大学であれば「非常勤講師」の全てを含む)の意見を組み上げ取り纏める必要がある。従って,その意思確認の手続きを行わずに,各労働者が承諾もしない内容を盛り込みただ「協定書」を提出したとしても無効となる。
そもそも明治学院大学が各種「協定」の偽装や虚偽申請を平然と行うことができるのは,単に「長時間労働」とそれに伴って発生する未払賃金の問題に自覚がないばかりか,そもそも勤務員の命と健康を蔑ろにする体質にあるからである。
そのことを象徴する極めて身近な実例は幾つかある。
明治学院大学の横浜キャンパスでは,最寄り駅の「戸塚駅」からキャンパスまで「教職員用マイクロバス」が巡回しているのであるが,コロナ禍が始まったばかりの2020年度,乗降口付近に「クレベリン」が一つ置いてあり,それをもってマイクロバス内の「感染対策」だと称していた。勿論,この「クレベリン」が新型コロナ感染症の対策としては全く役に立たないということは,かなり早期から知られていた事実であるにも拘らず。
しかも驚くべきことに,マスクをしているとはいえ,その狭い空間の中でひっきりなしに喋り続ける教職員もいるのだ。この御時世,マイクロバスで幼稚園・保育園に通う園児でさえ会話を慎むよう努力しているというのが普通なのではないだろうか?
そればかりではない。一旦全面的に「オンライン型」中心の授業形態が命じられた後,徐々に「対面型」の授業形態が解禁される中,特に冬の乾燥する時期に窓を密閉したまま授業を行う担当教員があり,換気は次の授業までの間の休憩時間のみであったり,前の授業の担当教員が用いるマイクもアルコール消毒をせずに,次の授業担当者にそのまま引き渡すなど(筆者が聴取した非常勤講師の方によると,高濃度アルコールティッシュなど除染のための衛生用品を毎回自腹で購入し準備せざるをえなかったという),とても「感染対策を十分に行っている」とは言えない状況にあった。
これらのことは複数の「非常勤講師」の方々が訴えていることであり,その気になれば幾らでも客観的な証言を得ることができるであろう。
いずれにせよ,学生や教員の衛生環境に配慮しているなどとはとても言えない状況で対面授業が続けられているというのは事実である。既に潜在的な被害は発生しているのであろうが,こうした現状は,実際の死傷者が出るまで表沙汰にはならないだろう。
ただ,いわば「事件化」しニュースで大きく取り上げられた本学の事例が二つばかりあるので,それらに目を通せば大学全体の衛生観念が如何なるものであるのかが明らかとなろう。
一つめは,学生課外サークルが河原で飲み会を開き,90人以上が参加し60人余りが集団感染したという事件。
二つめは,ある非常勤講師が「マスク拒否主義」の特殊な思想信条の下,各所で問題を起こし続けた挙げ句の果,遂に飛行機内で傷害行為にまで及び逮捕されたという事件。
大学側は自分らの建学の理念とは無関係にこれらの関係者らが勝手に事件を起こしたと言い訳しているのだが,周りから見れば,「そういう程度の人間」らが寄り付く組織にしか見えないだろう。
正論が通らず,どんなに将来のリスクを見据えて意見をしてみても,「村の掟」を絶対視するあまり他者の建設的意見を理解をしようともせずに頭ごなしに否定し,事が起きてから慌てて揉み消しにかかるというのがこの組織の体質なのだから,今後も同様のことが繰り返されることだろう。
ちなみに,この後者の事例の御仁だが,前回の記事にも出てきた「教養教育センター」の人事によって任用された人物である。同センターおよびその人事の問題に関しては稿を改めて詳述したい。
2.安全配慮義務
さて,「労働契約法第5条」には次のように記されている。通常これは「安全配慮義務」と言われる。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
法令検索「労働契約法」第5条
この抽象的な条文の内容を,より具体的に定めた法律が「労働安全衛生法」である。以下,同法から幾つかの条文を抜書する。(太字強調は筆者による。)
第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
法令検索「労働安全衛生法」第1条
第十条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。
法令検索「労働安全衛生法」第10条
一 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
二 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
三 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
四 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
五 前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの
2 総括安全衛生管理者は、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもつて充てなければならない。
3 都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告することができる。
第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項 (以下「労働者の健康管理等」という。) を行わせなければならない。
法令検索「労働安全衛生法」第13条
2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。
3 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
4 産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
6 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。
第十八条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
法令検索「労働安全衛生法」第18条
一 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
二 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
三 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
「労働安全衛生法」の内容は多岐に亘るため,労働法の専門家でもその全体を把握するのが難しく,そのために各事業所でも思わぬ見落としがあり,違法状態が放置されていることも珍しくない。しかし,この「労働安全衛生法」は「刑罰法規」であり,その第12章に「罰則」の一覧が掲げられている。
つまり,前項に掲げたような「労使協定」における「健康・福祉確保措置」も,そもそも「安全配慮義務」に基づく「労働安全衛生法」の示す内容を遵守するにあたって,具体的に定めるものなのである。「労使協定」を締結する口実として取り繕えばいいとだけ考えるのは愚の骨頂である。
ところが,これまで明らかにしてきた通り,明治学院大学では一般社会の感覚ではとても信じ難いようなまさかが日常的に発生するのである。以下,その具体的事例を見ていくことにする。
3.2022年度授業実施方針を巡って
2022年1月12日付で教務部長発の文書が,非常勤講師をも含む全教員に送付された。次はその内容の一部である。
一瞥して,明確な法令違反となる「指示」が記されていたため,筆者は同年1月25日付で教務課に次のような抗議のメールを送信した。
(尚,郵送による通知であるため到着までにタイムラグはあるものの,メールでの返信までに2週間を要したのは,「開設趣意」にも記したように,こうした精確さを要求するある程度の長文を記すと,日常生活に支障が来される程度の体調不良を生じさせるからである。この記事を記す今現在も全く同様である。)
次は,これを書き起こしたものである。(太字強調は筆者による。)
明治学院大学
2022年1月25日付教務部教務課宛メール(前半)
教務部教務課御中
先般,2022年1月12日付「2022年度春学期授業実施方針について」を拝受致しました(添付ファイルの通り)。
その内,「1-1.遠隔授業実施申請について」の項目に,
「通勤可能な体調であるが,ご自身もしくは同居する家族が,新型コロナウイルス感染症が重症化する恐れのある基礎疾患を有し,新型コロナウイルス感染症に対して特に健康上の配慮が必要な方は,遠隔授業実施の申請をすることができます。」
とあり,更に,
「申請書受領後,本学健康支援センター管理医が診断書の内容を確認し,それに基づき遠隔授業実施の可否を判断し,個別に回答いたします。」
とあるのですが,「健康支援センター」に問い合わせて確認したところ,「労働安全衛生法」に基づき学内に設置された「衛生委員会」の議を経たものではなく,同センターは一切関知していないということでした。(尚,衛生委員会の議事録には3年間の保管義務があります。)
同法に記された内容は「労働契約法」第5条に示される「安全配慮義務」について具体化したもので,両罰規定であるために,違反行為をした従業者と事業主の双方が刑罰(懲役・罰金)を負う可能性があります。
このため,この明文化された「指示」に基づく行為により実際に健康上の問題が生じた場合には,この「指示」を出した貴所が刑事責任を負うリスクを伴います。(上記の通り,学内の「衛生委員会」が関知していないため,当該指示の責任所在は貴所とならざるをえません。)
その上で,以下の点を確認させて頂きたいと存じます。
(1)教員の生命に関わる今回のこの指示の根拠は,如何なる法に基づくものでしょうか。(学内規程ではありません。万一,学内規程に基づくものであるとすれば,その条項をご教示下さい。その条項自体が違法ですので,即刻,労働基準監督署・労働局に通報致します。)
(2)この申請には「診断書」が必要であるとのことでした。しかし,当方は心疾患にて通院した後,主治医の判断に従い経過観察に切り替え,毎年人間ドック健診を含む検査結果を健康支援センターに報告しているわけですが,このようなケースを排除した「医学上の根拠」は如何なるものでしょうか。ちなみに,当方が通院したことのある循環器内科クリニックおよび総合病院に事情を伝え,「診断書」が発行できるかどうか尋ねてみたところ,「人間ドック健診結果報告書がありながら診断書が必要だというのは異常だ」とのことでした。
(3)この指示事項を決定する上で,これに関わった方々全ての氏名をお教え下さい。万一,新型コロナウイルス感染症への罹患により基礎疾患が増悪して死亡する,もしくは生活に支障を来す後遺症を残すに至った場合,この文書の日付の段階における「予見可能性」が問題となり,これに基づき法的措置を講ずることになるからです。即ち,この文書では,「通院中でなければ,感染症発症後に基礎疾患は増悪することは決してない」という医学的判断をしていることになりますので,この日付の時点で,誰がその結果に対して責任を負うことになるのかを明確にする必要があります。更に,これは「医学的判断」ですので,その権限がある方々なのか否かは確認されるべきことであると存じます。勿論,生命と健康に関わる事柄ですので,場合と状況によっては法的措置を講じます。
先ずは,以上3点について,今週中にご回答頂きたいと存じます。
尚,厳封した「診断書」は「信書」に該当致しますので,今回の場合「産業医」(もしくは健康支援センター保健師)以外の者が開封すると「信書開封罪」(刑法第133条)に問われ得ます。決して軽々しく提出を求め,扱うものではありません。
これに対しては,1月28日付で教務部教務課代表から,次のような回答メールがあった。
次は,これを書き起こしたものである。(太字強調は筆者による。)
(1)今回の授業実施方針の決定根拠についてのご質問ですが、同方針決定は、授業運営等に関して大学が有する裁量の範囲内で、大学に課されている安全配慮義務にも配慮した上でされたものです。
2022年1月28日付教務部教務課代表回答メール
(2)診断書についてのご質問ですが、配慮申請については、新型コロナウィルス感染症が重症化する恐れのある基礎疾患を有していることを確認する方法として一定のルールをお示ししましたが、個々の状況によっては、医師による診断書以外の方法を必ずしも排除してはおりません。
健康支援センターにご提出いただいた人間ドッグ検診を含む検査結果については、学校法人明治学院健康情報等取扱い規程に基づき、本人以外に開示することはできませんので、ご本人控えをご提出いただくか、控えがないようでしたら、健康支援センターにご請求をお願いします。
なお、昨今の状況から診断書を期日までに入手できないこともありますため、1月31日(月)を過ぎても受付いたします。
つきましては、1/1定員となった場合に、遠隔授業実施をご希望される場合は、申請書および付属書類のご郵送をお願いします。
(3)最後の氏名についてのご質問に関しては、組織での決定ですので、お答えできません。
以上のとおりご回答いたします。
いつも通り,人智不可解な文言の羅列であったので,これに対して筆者は次のように返信せざるを得なかった。
次は,これを書き起こしたものである。(太字強調は筆者による。)
メールを拝読させて頂きましたが,全く回答になっておりません。
同日筆者回答メール
(1)については,具体的な根拠法(条項)の記載がありません。
(2)については,全く人智不可解であり,何故,既に「健康支援センター」に提出済みの報告書を同センターに問い合わせて取り寄せ,わざわざそれを再び同センター宛に送る必要があるのですか? 法令違反の前に,社会常識というものがわかりませんか?
再度繰り返しますが,「信書」を「受取人」以外の第三者が開封すれば犯罪ですが,今回提出された「診断書」を教務課が勝手に開封しているということが明らかとなりました。このまま法的制裁を受けたほうがよろしいかと存じます。
(3)責任所在の不明な指示であり,法令違反ですので,これに従う必要がないことはわかりました。
いずれにせよ,人間の理解できる論理で回答頂けないようですので,これ以上の遣り取りは不毛です。今後本件については,貴所に連絡することなく,法令違反について通報致しますので,何卒お含みおき下さい。
以上,何卒よろしくお願い致します。
これらのメールの遣り取りだけで,本学が犯意をもって「労働安全衛生法違反」を行っていることが十分にわかるので,何も言う必要はないだろう。まさに,前項に記したことの典型例である。
4.布石
既に何度か記した通り,今年(2022年)4月に入ってから,筆者は個人的に労働弁護団の弁護士を代理人として立て残業代支払い催告を行ったが,これに先立って弁護士に依頼する以前に,大学(学院)と将来的に遣り取りする上での布石を打っておいた。
実は,前項に引用した2022年1月25日付教務部教務課宛メールには,続きがある。次が,当該メール後半の内容である。
次は,これを書き起こしたものである。(太字強調は筆者による。)
次に,本件に関連し,労働基準法違反について記します。
2022年1月25日付教務部教務課宛メール(後半)
当方は2011年に労災申請をしましたが,その労基署調査に際し大学側が提出した書類によれば,当方の就業条件は「裁量労働制」(すなわち「専門業務型裁量労働制」)とされています。その場合,法令上,対象労働者の健康状態および労働時間の状況等の勤務状況を把握する特別な措置を講ずることが必要となり,その前提の下に協定が結ばれ労基署に届出が提出されることになります。(ちなみに,学院規程の中には,この裁量労働制導入のために労基署に提出されたはずの協定書が存在しません。)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501876.pdf
更に,この「専門業務型裁量労働制」を導入するには極めて厳しい条件が課され,大学教員の場合には,「学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限。)」のみとされ,更に,2003年10月22日基発第1022004号「厚生労働省労働基準局長通達」によって,「研究業務」以外の全業務については,「1週の所定労働時間又は法定労働時間のうち短いものについて,そのおおむね5割に満たない程度」であることが定められています。
http://www.joshrc.org/files/20031022-004.pdf
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2037&dataType=1&pageNo=1
即ち,法定労働時間40時間をとったとしても,「研究以外の業務」に費やされる時間は20時間までしか許されません。当方の場合,授業1コマ(対面授業)に費やされる時間(授業準備,片付け,出欠簿処理,授業時間外における学生との遣り取りと,それに伴われる待機時間等々も含む)が平均5〜6時間ですので,単純に週5コマと計算すれば,他の学務に割り当てる時間は全くないまま,優にこの時間を超過し,そのまま裁量労働制導入のための協定違反となります。
この結果,「裁量労働制」は解除され「実時間労働制」となりますが,当然「みなし労働」が適用できなくなるため「残業」が発生することになります。しかも,上記「学校教育法」に定められる通り,「教授」の業務は「主として研究」(研究業務)であるとされるため,一週あたりの「実労働時間」(研究業務およびそれ以外の学務全般の全労働時間)は,そのまま「36協定違反」となります。なお,2020年4月より,時間外労働には罰則付きの上限が設けられ厳格化されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf
いずれにせよ,「専門業務型裁量労働制」が成立するか否かに関わらず,本学の現状では,労働基準法違反が常態化しているという事実がありますので,既に刑事性を帯びているということになります。
貴所が「教育業務」を主管する部所であり,更に,今回明確になったように,この「教育労働」に伴う「健康管理」に関して権限をもつと主張しておられる以上,法令を遵守するための「各教員の労働時間把握」を徹底しておられることと存じますが,それであれば,この「36協定違反」については貴所が刑事責任を負うべきだろうと思われます。
いずれにせよ,2020年4月より残業代請求の時効は3年間となりましたので,この2020年度からの全労働時間(教育業務)を調査する上で必要となる全物証の保全をお願い致します。(もはや社会常識であるためここに記す必要もないとは思いますが,仮に労働基準監督署の捜査を妨害しうる証拠隠滅などの行為を行った場合には,その被疑者は逮捕される可能性があります。)
以上,冗長になりましたが,取り急ぎ最初の3点について,ご回答をお待ちしております。
この内上3分の2ほどの内容は,これまでの二つの記事において説明してきた,「裁量労働制偽装」と「36協定偽装」の事実について指摘したものであるが,いずれにせよ「労働時間把握」が必要となるため,教務部教務課を介して大学に釘を刺しておいたわけだ。
つまり,このメール文書の存在によって,大学(学院)側代理人弁護士が「労働時間把握をしていない」と回答した瞬間,大学(学院)が犯意をもって労働基準法違反を犯していたことを証明することとなる。
筆者が代理人として立てた労働弁護士の方は,念には念を入れ文書による回答を何度も申し入れているが,大学(学院)側はその文書による回答を,2022年11月が終わろうとする今現在に至っても尚,拒絶し続けている。
ちなみに,前項および本項の内容は,その遣り取りの文書を添付し「大学教員組合」の前年度執行部および今年度執行部に全て報告しておいた。しかし,既述の通り,筆者に回答がないばかりか,全組合員との情報共有をはかろうとの意思を全く持ち合わせてはいなかったようである。
違法行為の隠蔽工作を大学全体で組織的に行っているからである。
5.安全配慮義務の軽視
実は,本稿で問題として取り上げた大学の「安全配慮義務違反」について,筆者が大学と遣り取りするようになったのは2004年以来である。
その事実は,2008年12月8日付で学長に送付した内容証明郵便で確認することができる。この文書は,2011年に労災申請するにあたって労働基準監督署へ提出し「復命書」即ち「行政文書」となったものである。
この文書が示すのは,2004年に筆者が過労とストレスのために緊急入院することになり,退院後も免疫低下と原因不明の感染症に苦しみ続けたために,それに対する配慮を願い出たにも拘らず,放置され続けたという事実である。
読者はここで今一度,本稿「2.安全配慮義務」に引用して記した「労働安全衛生法」第18条を確認されたい。
上掲内容証明に記された事柄は,勤務員の「感染症」に関する問題であり,本来は当該事業場,即ち「横浜キャンパス」において「衛生委員会」が審議し方針を定めることが必要な内容である。ところが驚くべきことに,大学はこの2008年時点で未だこの法令すら認知しておらず,「衛生委員会」そのものが存在しなかったのだ。
同様の「安全配慮義務違反」は,この後に送付した2009年2月21日付学長宛内容証明にも伺うことができる。
これは当時社会問題化していた「受動喫煙」に関する問題について抗議したものであるが,講義と講義の間の移動時間に多くの学生が往来する中を教員が平気で歩きタバコをし,あるいは,複数の学部学科において,教員が休憩する「共同研究室」を「喫煙所」として供し妊娠中の女性教員への配慮すらなかったという酷い状況が放置され続けていたためである。
今現在の社会的常識では考えられないような衛生環境であるが,こうした事例は「命と健康に関わる違法状態を指摘されても放置し続ける」というのが本学の方針であるということを証している。これは快か不快かという感情の問題なのではなく,明らかな「安全配慮義務違反」であるからこそ処断されねばならないのである。
6.人災による研究室の倒壊被害
さて話はこれよりも数年後のことになる。2011年3月11日14時46分頃発生した大規模地震災害は,それまでの常識的地震対策がもつ脆弱性を露わにすることとなると共に,その欺瞞性を暴き立てることにもなった。
次に掲げる画像は,この大規模地震災害直後の筆者の研究室内部を撮影したものである。
これまでも繰り返し述べてきた通り,筆者の勤務する「事業場」は「横浜キャンパス」である。大学から「とにかく各自の研究室内部を確認してほしい」という緊急メール連絡が届き,行ってみると,固定されていたはずの鋼鉄製書架が全て転倒していたために,一旦それだけを立て直して撮影したのが次の画像だ。
「耐震対策」をしていたはずの大学研究室で,何故これほどまでの倒壊被害が発生したのか? 直接現場でこれを見れば,誰しもが疑問を抱かざるを得ないだろう。
だが筆者はこのとき,直ぐに原因を察し特定することができた。そして,撮影したのがこの画像だ。勿論,複数撮影したものの内の一枚である。
これを見れば,多少なりとも建物の構造体について知識をもっている人間であれば直観するであろう。次は,大学の「震災対策本部会議」が正式に通達した説明である。
研究室の書架については、壁面のボードへのボルト留めだけであったため、転倒が生じた。今次の補修では、躯体に直結する方法をとり、書架の底面についても同様の措置をとる。
明治学院大学震災対策本部会議における説明
自分らが「経費節減」のために「手抜き工事」を指図しておいて,この他人事のような言い草は,一体何なのだろうか?
この「人災」によって死傷者は出なかった。大学の業務も,直接出校する必要がなく主として在宅でメール等の遣り取りにより進められる時期であった,ということも幸いしたであろう。しかし,万一被災時刻にここで業務を行っていたとすれば,書籍や書類が全面に詰まった鋼鉄フレームの壁面に押し潰され,決して軽症では済まされず,確実に後遺症を残す障害を負っていたことだろう。
この様に,上掲の画像こそ,明治学院大学が勤務員の命と健康を度し難いほど軽視している事実を,何よりも雄弁に語っているのである。
筆者は,この倒壊被害にあったときには療養のため傷病欠勤に入っていた。日常生活にも支障を来すほどの健康状態であり,殆ど寝たきりに近い生活を余儀なくされていたが,既述の通り,突然の呼び出しを受け,重い体を引き摺るようにして確認のために研究室に赴き,残された僅かながらの体力を使って死ぬような思いで鋼鉄製書架を立て直した記憶は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。
こうして書籍書類等々が散乱し山積みになった状態は,その後人が通れる場所を確保するための最低限の片付けを行ったものの,今現在も尚,殆どそのときの状態のまま放置してある。その後も傷病が遷延・増悪し,一コマの授業を行う度に横になって安静を保たなければ動けなくなるような身体状態が続き,片付けどころではなかったからである。このため,「研究室」は「納戸」と「仮眠室」を併用したような場所に成り果てている。
筆者が横浜西労働基準監督署に労災申請を行ったのは,この年2011年1月21日であり,この「人災」は,まさにその調査が行われている最中に発生した。このとき筆者は,監督官庁の法による公正な判断,建学の理念“Do for Others(他者への貢献)” による自浄努力,同僚教員らの大学人としての見識 ― こうしたことどもを信じ,「これまでの労苦の一切からやっと解放される」と思っていた。
愚かであった。地獄の門がまだ開いたばかりであるということを知る由もなかったのであるから……