久しぶりに一日雨が降り続いた。気温も低く,冬に戻ったような感じだった。
今月に入ってすぐ,ウィーン在住のチェリスト平野玲音さんからメールが届き,短期間帰朝して小さなコンサートを開くと知らせて下さったのだが,こちらも,体調や来年度準備等がどうなるのか覚束なかったので直ぐにお返事差し上げられなかった。それでつい一昨日そのコンサートの残席を確認したところ,まだ空席があるとのことで,予約を取り都内を往復してきた。
会場は汐留ホールだったのだが,新橋駅から近いものの,歩いてみると結構複雑で,雨が降り続く中,途中で迷いながらなんとか辿り着いた。他の客も皆,かなり迷っていたようだった。会場に着いてからわかったのだが,JR新橋駅から都営地下鉄大江戸線に乗り継いで汐留駅で降りるのが一番スマートかも知れない。
かなり狭い会場なので感染対策など大丈夫だろうかと思っていたのだが,観客はマナーをきちんと弁えた人たちばかりだったようで,会場で大騒ぎするような人たちは一人もいなかった(大体どんなコンサート会場でも大声で会話している迷惑な連中がいるものだが)。演奏中も他の客の素行が気になるということもなく,集中して拝聴することができた。
プログラムとしても平易で聴きやすい曲目が並んでいたが,演奏会場としてはデッドな空間であるにも拘らず,決して陳腐な響きではなかった。上野真理さんのヴァイオリンと共に,繊細かつクリアな音で,最初から最後まで楽しむことができた。小コンサートとはいえ,このレベルの音楽を聴くことは,なかなかできないだろう。
その後,平野さんがコロナ禍におけるオーストリアの音楽事情について映像を交えながら説明して下さり,国内の感染症対策と演奏活動とについて,貴重な話を伺うことができた。結構,オペラも普通に上演されていたようだ。
そういえば,昨年メールを頂いたときには,肩を痛めたということを書いておられたのだが,帰り際にお聞きすると,右肩だったらしい。つまり,運弓に直接影響し,下手をすると演奏活動に支障を来すことになる。やはり演奏を一時期控えていたようで,その間,徹底して極力負担のかからない奏法を研究したということだ。それが直接的な原因かどうかはわからないが,平野さん自身の才能も手伝って,単なるテクニックを越えた音楽へと深まりをみせたのだろうと思う。
こちらもこの一年ばかり体調を崩してやっと復帰できたところだったが,そんな時期に,奇しくもこうした音楽に接することができたことは幸運だった。
気付けば,あれから一ヶ月以上も経っていたのだが,平野さんご本人から,会報に寄稿して頂けないかと打診メールを頂いた。私のように文才のない人間が寄せてもいいものなのか迷うところだが,前向きに検討してみたいとは思っているところだ。(2023/05/02 付記)