このところ,Sarabande で発音の訓練をしてきたが,やはりあと少しタンギングの悪い癖を矯正した方がよいだろう。発音に集中するために,これまた有名な〈メヌエット ホ短調〉 を浚うことにした。先日の Sarabande 同様,“Fantasies and Preludes, Giedde I.45” に収められている。
余りお手本にはならないが,演奏を公開している人がいる。
e-Moll(ホ短調)なので,トニック(主和音)は,「柔らかい音」である主音 e の上に「硬い音」である g-h が乗る形で構成される。更に,e は「人間の感情」を表す fis と隣接し,いわゆる「導音」である dis が悪質なトーンを響かせ,これら e-fis に影響を及ぼす。
この結果,主音 e のもつ内省的な要素を基本としながら,何の前触れもなく突如として感情が高ぶるといった衝動が生まれることとなる。このとき,e と同じく「柔らかい音」である c が,この衝動を,いわば「宥める」役割を果たすことになる。
こうした各音のもつ性格を浮き立たせつつ,音の連関の中から「音型」を作り上げていく操作をすることになるが,これはまさにバロック音楽における演奏原理であり,決してロマンティックな感情が先立つ音楽ではないのである。
譜面上に見られる「スラー」も,「感情の表出」が求めてられているのではなく,それら一群の音が一つの「模様」を形成すると捉えなければならない。「感情」は,あくまでもその結果として聴く者の内面に偶々現象するに過ぎない。
この基本に立ち返りながら,先ずは個々の音の性格をきちんと表現し分けることができるように,発音の訓練をしているというわけだ。
尚,今の所,楽器の扱いの簡便さと発音のシビアさとの観点から,樹脂製バロックピッチトラヴェルソ AF-3 をずっと使用している。木製楽器であれば,多少の狂いは誤差の範囲として片付けることができるのだが,あくまでも,音楽的な事柄に訓練を優先させている段階であるから,この方がいいわけだ。