ルーリー
ちょっとしたことが理由で,以前に購入したアントニー・ルーリー著/有村祐輔訳『内なるオルフェウスの歌』(音楽之友社,1995年)を読み返している。
このルーリーというのは,古楽におけるレオンハルトやブリュッヘンの次世代と言ってもいいと思うが,エマ・カークビーらと共に,リュート歌曲の新たな響きを目指したリュート奏者である。
ルネサンス思想
演奏家の書いたものであるので,内容は決して文献学的に正確とは言えないのであるが,ルネサンスの音楽思想を見直す上で重要な鍵となるべきものを提示してくれている。彼なりに調べたルネサンス音楽を支えた当時の思想について,引用しながら書いているからだ。
最初のほうでも興味深い事実が掲げられていて,例えば,イギリス音楽にもフィチーノの影響が明確に見られること,更には,音楽表現において “grazia”(通常「優雅」と訳される)と言われているものは,何と「神的狂気」と関係していることに言及されている。
このような論調が行き着く先は自ずと知れて,ダウランドは明らかにフィチーノによって掘り下げられたメランコリアを表現しようとしているということになる。
そろそろ日本の古楽関係者も,くだらない御託を並べているくらいだったら,こうした問題に取り組むべきなんじゃないだろうか。
旧ウェブ日記2008年6月13日付