Caramel Dance
「ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)」というのは変なタイトルだが,今から十数年前に旧ウェブ日記に投稿したことがあるネタである。
このタイトルの表記そのものについては,既にウィキペディアに詳細な記載があるので,初耳だという時代に取り残された情弱の方々はそれを一読して頂きたい。
昨今,ネットの動画投稿サイトに様々な動画が投稿され,ときとして,ある投稿者の何気ない動画が全世界規模で共有され,一挙に流行を作り出すという現象がしばしば見られる。
今回取り上げるのも,2006年頃に先ずはアニメ動画で爆発的に広まり,その直後に,そのアニメ動画の動きを模したダンスが流行したものだ。
このダンスのオリジナルは,スウェーデン語で “Caramelldansen”(英語では“Caramel Dance”)という名称をもち,元々は純粋な楽曲に過ぎなかった。
これがそのオリジナル楽曲。
まあ,私であれば「そういやこんな感じのポップな曲はどっかで流れているよね?」ぐらいな感じで聞き流して,殆ど印象にも残らないという類の俗楽に過ぎない。
メディアミックス
ところが,この音楽にインスパイアされた誰かが,巫山戯てテンポを弄って軽快なノリにした上,アニメキャラで踊らせたところから,この騒動が始まる。
当該のアニメは,上述の音楽とは全く関係のない独立した作品である。そのオープニングに用いられた動画の一部を切り取ってきたらしいのだが,次がそのオリジナルだ。
この全く関係のない音楽とアニメとがリミックスされた経緯に関して,単純にGoogle検索をする限りにおいて,証言の数はそれほど多くはない。比較的詳しいのは,次の投稿記事だ。
間を飛ばして,手っ取り早く結論から言うと,次のようなメディアミックス作品が爆誕したというわけである。
いわば「ヲタク」たちが遊び心でやりそうな悪戯である。
この動画の投稿の日付を見ると18年前となっていることから,2007年頃だということがわかる1。
更に,これに対する最初のコメント2を見ると2007年3月31日になっていることから,少なくともこの動画自体の投稿は,それよりも前であることが明らかとなる。

ただ,上述のBlog記事に記されたことによると,この動画も転載だったらしい。
これについては,更に別のBlog記事が掘り下げている。
これによると,2006年8月8日に動画サイトに投稿されたものがオリジナルらしい。いずれにせよ,そのオリジナルと思しき投稿は既に消去されてしまっているため,このBlog記事内容が唯一の証言ということになる。
波及
こうしてこのメディアミックスが火付け役となり,様々なアニメキャラクターを動かした作品が続々と投稿されるようになったようだ。
そして,未だに「ウマウマしている」人々がいる(コメント欄を参照のこと)。
「馬鹿なことしてんなぁ」という感想で終わらせるのは自由であるが,注目すべきは,やはりアニメ技術である。
これを普通の作画ソフトを使用して一から自分で作ってみることを想像してみてほしい。オリジナルに基づき様々な趣向を凝らし,イマジネーションを膨らませて作画と動きに変化を付けていくことによって,不思議な世界観を作り上げている。
はっきり言って才能の持ち腐れだとしか思えない。が,こうした「ヲタク」たちの気まぐれが日本のサブカルチャーを牽引してきたという事実も否定することはできない。
『UMA UMA ダンス』爆誕
踊りの振り付けとしては単純である。世界中にこうしたメディアミックスが波及すると,それを実際に真似して踊ってみたくなるというのは,人間の性なのだろうか?
で,ついにやっても〜た人たちがいる。先のBlog投稿記事によると,次の動画3が投稿された日付は,2006年9月21日らしい。
この Crissey & Alodia というのはフィリピーナらしい。そして,「このアニメの動き,なんかたまらん」とか思ったのか,とにかくやってみて動画に撮ってみたところ,その自分たちの姿がかなり気に入ったらしい。
それで「さらなる高みへ!!」とか思ったかどうかはわからないが,もっとオリジナルに近づけようとして撮ったものを同日にアップしている。
単にノリでキャッキャウフフして撮ってるだけなのだが,この動画の最後のほうで,自分たちの姿を確認してみたところ綺麗にキマったらしい。
それで見栄えのよい部分をカットして無限ループさせて編集し,2006年9月26日にアップしたのがこの動画。
まあ,動きと音楽が合ってるのか合ってないのかビミョーなところを突きつつも,ネタ動画としては完成度が高いのでお披露目したところ,アニメでしか見ることのできなかったこの奇妙なダンスを「人間が実演できる」という可能性を切り拓くことになったわけである(のか?)。
こうして地球にまた新たな『UMA UMA ダンス』なるものが誕生し,一挙に全世界が感染することになる。今もなお動画サイトに,所謂「踊ってみた」画像として世界のどこかから誰かが新たにアップしているのである。
ただ,サブカルチャーの世界というのは,伝播するのも高速だが,変質を受けるのも高速だ。また,年代毎の流行と投稿サイトにおけるコミュニティー毎の色も多彩であるため,例えば,次のように,比較動画も投稿されている。
その後
さて,人類の可能性を切り開いた Crissey & Alodia の二人であるが,この切り抜き画像の左側が Alodia で,右側が Crissey だ。そして,先に見た三つの動画では,Crissey が子供っぽく大はしゃぎして積極的にこの悪戯を先導し,Crissey が巻き込まれながらも,幼馴染のやることを楽しんでいる感じに見える。

動画投稿が2006年9月21日であるとすれば,それからもう20年が過ぎようとしている。いくらなんでも彼女らがこのときの動画の姿から全く変わっていない等ということはあり得ない。
これほどまでのブームを引き起こしたのであるから,彼らが今現在どこで何をしているのかについて,気になるのが人情というものだろう。ということで,わかる範囲で調べてみた4。
Crissey Si
クリッシー (Crissey) の本名は Crissey Si で,SNSによっては Cris というニックネームを使ったりするために,検索エンジンではなかなか正確な情報に辿り着くのが難しかった。
先ず,deviantARTがかかってくるので,そのプロフィールを見ると5,フィリピンの「コカ・コーラボトラーズ」でグラフィックデザイナーをやっていたことがわかる6。
更に,Facebookには,「ゲーム動画クリエイター」であることが記されている。どうも来日もしているようで,京都で着物を着た写真などもアップされている。親日的なのだろう。
Facebookにアップされた写真を見ると,『UMA UMA ダンス』の火付け役になった落ち着きのない姿はどこにも見られず,いつの間にか立派な大人の女性になっている。

そればかりか,Instagramには新たな家族と共に賑やかな日常を送っている様子を認めることができる。
ニャハハハしながらはしゃいだ結果,世界に影響を及ぼしてしまったあの子がその後どうなったのか,動画を見る度に,あるいは,思い出す度に何故か気になっていたのだが,その未来が平穏に満ちたものであることを確認できて安心したというか, 満足したというか……
Alodia Gosiengfiao
アローディア (Alodia) は本名であり,SNSなどでもその他のニックネームを使っていることは確認できない。そのため,彼女の情報に辿り着くだけであれば,クリッシーより遥かに易い7。
だが問題は逆に,彼女に関する情報が多過ぎることにある。つまり,紹介することは簡単なのだが,果たして,何を語れば彼女の今ある姿に正面から向き合うことになるのか,それがわからなくなってくる。
それもそのはず,クリッシーと共にサブカルチャーの世界において突如として有名になってしまった彼女は,その後,フィリピンを代表する世界トップレベルのコスプレイヤーとして躍進することになるのであるから。
コスプレイヤーとしてのレベルは,クリッシーも使っていたdeviantARTを少し覗くだけで理解できるだろう。
彼女も親日的であり,このサイトに掲載されているスケジュールの2013年8月19日には「MARBLE WONDERLAND by ASIA 可愛 WAY」への参加が記されているが,その時の様子は「モデルプレス」にも取り上げられている。
このプロジェクト「MARBLE WONDERLAND by ASIA 可愛 WAY」は,2013年に日本のポップカルチャーをアジア全域へ向けて発信・輸出することを目的に発足したものであるが,このときのオフィシャルテーマソングとして制作された楽曲が《KAWAII GIRL》だった。
世界トップレベルのコスプレイヤーであるはずのアローディアが世界に向けて伝えたかったのは,日本の「Kawaii文化」だったことには驚く。だが,そもそも彼女がコスプレに目覚めた原点は,日本のサブカルチャーだったはずだ。
アセアンフェスティバル2014で来日した彼女は,この特別な楽曲を日本語で披露している。
クリッシーとじゃれ合いながら作った『UMA UMA ダンス』の精神は,日本とフィリピンの文化交流を深め,いよいよアジアや世界へと広がっていく。
更に,このフェスティバルでは,彼女の祖国の国民的スタンダード・ナンバーである《Torete》を,タガログ語で歌っている。
文化的ルーツ
彼女は丁度この頃に「セブン銀行の海外送金サービス」のプロモーションにも参加している。
彼女は自分自身が日本で活動する経験を持つ一方,日本で働く同胞たちが母国の家族へお金を送る際に直面する苦労(手続きの複雑さ、時間の制約、高い手数料など)を理解していた。しかも,このサービスは日本語のみならずタガログ語を含む9言語に対応し,24時間いつでも不安なく送金できるシステムだった。
彼女にとってこのPR活動は,世界的コスプレイヤーとしての影響力を日本とフィリピンとを結ぶ社会貢献のために用いようとの思いもあったのだろう。
更に,彼女はコロナ禍においても,新型日産アルメーラの公式アンバサダーとしてPR活動を行っている。
10代にコスプレを始めて以来,一貫して日本のアニメやゲームへの愛を発信してきたことを見てもわかる通り,彼女にとって日本は,いわば自らの「ルーツ」であると考えられる。
勿論,企業側には彼女を戦略的に起用するという狙いはあるにせよ,彼女自身は自らの愛する日本を伝えることに意義を見出したのだろう。
日本での彼女の様子は,その公式YouTubeチャンネルにアップされた動画からも伺うことができる。
その中には,2016年2月に銀座三越で開催された,世界的アーティスト天野喜孝氏(「ファイナルファンタジー」等のキャラクターデザインで知られる)のアートプロジェクト『CANDY GIRL』とのコラボレーションイベントに出演した際の様子を撮したものもある。
そのコメント欄を一瞥すればわかるのだが,殆ど全ては日本人以外であることからも,日本のサブカルチャーを海外に伝える彼女の役割は決して過小評価できない。
今年2025年11月30日付のABS-CBNニュース記事には,彼女の息子キャメロンの1歳の誕生日を祝うためのポケモン・パーティーを開催した旨が記されている。

日本のサブカルチャーに触発され,それを愛し続けてきたアローディアの文化的ルーツを,この子もまた共にしていくのであろうか。
注
- この動画を見る限り,かなり画素数が荒い感じであるが,それでも当時可能であった技術を考えてみると,これでも最も綺麗な画像だったはずである。丁度,テレビが地デジに切り替わってから,昔のアナログ画像を見たときに荒く見えるのと全く同じである。
- YouTubeのコメント欄には,投稿を逆順で見る機能は付いていないため,これを見るためには,例えば,Hadzy 等のサイトを利用するしかない。ここに掲載した画像は,このサイトを利用して逆順にした結果をスクショした。
- ちなみに,今ここで紹介した3つの動画は,彼女らがアップしたオリジナルそのものではなく,全て第三者が転載したものである。私が初めてこれらの動画を見たときは10年ぐらい前のことで,そのときのものはオリジナルだった。それからしばらくして覗いたときには削除されていたため永らくお見かけしなかったのだが,最近検索してみたところ,これらの転載画像を見つけ出したので,今回この投稿記事を記す契機となった次第。
- Gemini 3 を対話的に用いて情報を整理しながら,新しい事実を孫引きしてという形で作業を行ったところ,単に検索エンジンで闇雲に調査する以上に,精確な情報に辿りつくことができた。
- ここにはAlodiaと一緒にコスプレ姿で映っているCrissey and Alodia 2という写真が掲載されているのだが,これを撮したのは Tricia Gosingtian(ニックネーム slumberdoll)である。この三人は旧くからの親友同士で,更に,Alodia の実妹 Ashley と共に映った動画がある。
- また,そこに記されるリンク www.hellocrissey.com は既に閉鎖されている。そのアーカイブを見る限り,2011年10月24日〜2015年7月18日にかけて活発に投稿を行っていたようだが,その後は閉鎖されている。
- “Alodia Gosiengfiao” で検索すると “Ashley Gosiengfiao” という人物もかかってくることがあるのだが,このアシュリーはアローディアの実妹で,姉と同様にコスプレイヤーである。二人は映画『バイオハザード:ザ・ファイナル』にゾンビ役で出演しており,このことは,後に主演のミラ・ジョヴォヴィッチがInstagramに投稿することによって明らかとなった。





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