未病を治す

PRIVATÆ

下部消化管内視鏡検査

腸の内視鏡検査を受けた。腸のレントゲン写真を撮ったことはあるが,腸内を直接見るというのは今回が初めてだ。

内視鏡にせよレントゲンにせよ,いずれにしても腸内を完全に空にしなければならない。そのために,前日から食事制限があり,肉類や豆類などの固形のものは避けなければならず,午後9時以降は牛乳も口にしてはならない。空腹が我慢できないときに限り,水,お茶の類が許される。

病院から予め2種類の下剤を渡されるが,この午後9時というのは,最初の下剤を投与する時間である。このときの飲み薬は,コップ一杯の水に溶かして飲めばいいだけである。

ところが,検査当日に投与するものは,予め透明なビニール容器に入っていて,このキャップ付きの容器に水を入れる。最終的に2リットルにするのだが,1リットルほど入れて振って溶かして,大体溶けたらあと1リットル足して全体を2リットルにする。目安となるメモリがついているので,量をはかるのは面倒ではない。これを寝る前に作っておくと起きた頃には,溶け残っていた若干の薬も完全に溶け,透明な2リットルの液体ができあがる。

これを午前7時から開始して一定時間おきに分けて飲むのだが,最初は250ミリリットルを15分おきに飲み,4杯目からは,やはり250ミリリットルを10分おきに飲む。この水溶液は,腸で吸収されない成分になっていて,体内に入るとそのまま流れ出る。これで腸を洗浄するわけだ。

必死

実際に飲んでみると,最初の2杯目くらいは何ともないのだが,飲んだ液体が吸収されずにそのまま腸内に溜っていくから,3杯目からは飲むのが苦しくなっていく。そして,飲み始めて1時間後くらいから排泄が始まるが,言ってみれば強制的に下痢を生じさせるわけで,飲み干した2リットルの水溶液全てが完全に排出されるまで,トイレに何度も通わなければならない。これが終わるまでには,殆ど尿とも言えるような透明な液体が出るようになる。

検査は午後1時に予約となっていたので,時間的には余裕があるはずであったが,実は,午前11時に漢方外来の予約も入っていたために,9時ジャストには自宅を出なければならなかった。

つまり,7時から上記の処置をし始めるとすると,飲み終わった頃には9時近くになり,未だ腸内に最後の薬品が残ったまま出発することになる。これで電車とバスを乗り継いで病院まで行くのだから,途中どうなるか予想もつかず,半分祈るような気持ちで移動した。

案の定,相模大野で乗り換える際には,殆ど我慢ができなくなってきていて,急いでトイレに駆け込んだ。排泄されるのが液体であるということがわかっているだけに,必死だった。

漢方外来

さて,漢方外来での所見であるが,これまで20日間ばかり投与し続けてきた桂枝加芍薬湯ケイシカシャクヤクトウによって,症状が緩和された旨を伝えた。

これからの処置として,どうするかを訊かれたが,私としては,既に,高島堂薬局で方剤を調合してもらうことに決めていたので,「今回はどの方剤が合うのかの臨床的なテストだと考え,また何か症状が現れた場合に通院することにしたい」と述べると,そうしましょうということになった。従って,漢方外来はこれで終わり。

この診察が終わるとまだ12時前で,検査まで1時間くらいあったので,休憩所の椅子で休んでいた。朝から処置を続け2時間かけて移動したので,かなり体調が厳しく,全く何もやるきが起こらなかった。ぐったり凭れたままじっとしていた。

検査

午後1時15分前頃に消化器内科の受け付けに行き,しばらく待たされた後,検査となった。こういう下半身を露出するような検査がどうやって行われるのか興味があったが,廊下から「更衣室」と書かれた幾つかある小さなドアから入ると,そこが一畳ほどの小さな更衣スペースとなっており,反対側のドアが検査室に繋がっていた。

その更衣室で下半身を完全に露出する。靴下も脱いで裸足になる。そして検査室が準備した紙製のトランクスに履き替える。このとき,このトランクスには穴が開いていて,そちらが後ろになるようにする。

こうして検査室の寝台に横たわるが,検査士に背中を向けるような形で横になり,後は俎上の鯉である。何せ,普段は排泄に使っている管を,排泄とは逆行して異物が入っていくのだから気持ちが悪い。

勿論,腸の動きを抑えるために筋肉注射を打たれるが,それでも,腸内の感覚はしっかりとある。正直いって,大変苦しい。胃カメラの場合も苦しいが,腸の場合,カメラが移動する距離が長い上,蛇行している。

つまりカーブに差しかかる度に,腹がつかえた感じがする。それだけではない,カメラ進行をスムースにするために,空気を送って腸を広げ,通路を確保していく。このために,まるで便秘でガスが溜って腹が苦しくなるような状態が続く。それでも,私の場合には,非常に順調に進んだということだった。

十二指腸にまで達すると,カメラを手繰り寄せながらこれまでの通路の状態を目視していく。結果としては,ポリープや潰瘍や糜爛びらんの様なものは一切見られなかった。

最初,カメラが入っていく際に,血管が浮きでている箇所が何箇所も見られ,何かの異常なのかと思っていたが,検査士の説明によると,逆に,健康であるために血管が透けて見えるのだという。

つまり,今の段階では腸の形態的な異常は何ら見られず,相変わらず続いている症状は,かなりの程度で過敏性腸症候群であることになる。勿論,今回撮った幾つかの箇所の写真を担当医が見て,どう判断するかを待たねば,確実とは言えない。

もり

帰りに受け付けで食事はすぐにとっていいと言われたので,伊勢原駅近くのデパートの食堂街に行き,もり蕎麦を大盛りにして食べた。

「もり」だけ注文する客も珍しいかもしれないが,しかし,昨晩から空腹状態が続き,下剤と内視鏡によって,腸が疲弊していることは確かなのだから,その直後に油を入れるのは避けたほうがいいだろう。下手をすると,腸が働きを停止し閉塞を起こす可能性もある。

未病

さて,帰宅すると,昨日電話で高島堂薬局に注文しておいた薬が既に届いていた。胃炎と過敏性腸症候群に合わせて処方してもらったのだが,人参湯ニンジントウ・オタネ人参・加 芍薬カシャクヤク小茴香ショウウイキョウ牡蛎ボレイ(これに加えて,生のヒネショウガ4g位を薄くきざんで入れ)という配合だ。

このうち,「牡蛎ボレイ」というのはその名の通り「牡蛎かきの貝殻」のことなのだが,特に,胃の鎮痛作用があるということだ。そしてたしかに薬草に混ざって白い貝殻の小さな破片が入っている。

こうして高島堂薬局で処方してもらった方剤を見てみると,過敏性腸症候群に対して処方する方剤はある程度わかっているものの,この病気の症状の現れ方が複雑であるために,今現に私がもっている自覚症状に効く方剤(加芍薬)を中心としながら,他の症状を治療するために用いる方剤も,今現に出ている症状と関連すると思われる限り,混ぜ合わせているということがわかる。

これは,長年の経験のなせる業であり,病院で処方される市販の漢方薬には絶対に見られない繊細さである。

これで,来週の診療までの間,体調の変化を観察することにした。とはいっても,内科診療とこの漢方処方とは直接的な関係はない。

おそらく,内科医の最終的な判断は「全く異常が見られない」ということになるだろう。そして,「自覚症として痛みがあるようだったら,鎮痛剤を出します」という程度のことだろう。

しかし,漢方ではこのような「病気は発症していないにも拘らずはっきりとした自覚症がある病気予備軍」を「未病みびょう」と称し,まさに「未病をす」ことに重きをおいている。3年ほど前,私が健康診断の結果のみを信じて,この「未病」を放置することがなければ,入院することなどなかったであろう。今は,「未病を治す」ことに専念すべきときである。

ついでまで,昨年一杯悩まされ続けた膀胱炎の症状は,昨年末の漢方処方で根治した。


旧ウェブ日記2007年2月28日付

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