オーストリア在住のチェリスト平野玲音さんのコンサートがあった。昨年は集いの会に(招待で)参加させて頂いたのだが,今年はそちらの時間的都合がとれず,コンサートのほうはなんとかなった。
今回のプログラムはロベルト・シューマンを中心とするものだった。


私はロマン派以降を聴くことは滅多にないので,それぞれの曲に対して評価基準というのものをもたない。しかし,そのほうが却って音楽そのものに向き合うことができてよかったのかもしれない。
先ず平野さんは,ピアノ伴奏による独奏曲は全て暗譜で演奏しておられた。これには驚いた。演奏した時間は総計すると結構な時間になるのではないだろうか。
何より,音色の変化が多様で素晴らしかった。チェロにしか出せない低音の重量感は勿論のこと,やはり高音の柔らかさクリアさ,そしてハーモニクスの美しさ,それらは,それこそ生で聴いてみないとわからない魅力がある。
それから,平野さんの演奏が不思議なのは,どれだけ音量が大きく悲壮感を漂わせるような旋律を奏するときにも,その中に — 誠に勝手な私のイメージなのだが — 幼くあどけない子どもが草花を手にし,それに微笑みかけるような優しく無垢な響きが立ち現れるということだ。
たしかに,ピアノやヴァイオリンの共演者もプロとしてハイレベルの技術をもっていることはわかるのだが,平野さんはそういうものとは次元の違うところで音楽しているように思えた。勿論,私にとって「音楽」というのは,そういうものなのだが……
日々の日常で,思考や感性が雑然とした事物に塗れて疲弊する中,何も考えずにこういう音楽に触れるのも悪くはないなと,平野さんの演奏を聴く度に思わされる。
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